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【ボーカリストのための】ボイストレーナーが教える腹式呼吸のしくみ
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【ボーカリストのための】ボイストレーナーが教える腹式呼吸のしくみ

腹式呼吸をマスターしたい、という理由で私のボイストレーニング講座に通われる生徒さんは少なくありません。

生徒さんに「腹式呼吸ってどんな呼吸だと思いますか?」と尋ねると、「えーと、息を吸う時におなかが膨らんで……あれ?おなかが凹むんだっけ?」とか「深くてリラックスできる呼吸のことでしょうか」など、曖昧な答えが返ってくることが多いです。

腹式呼吸をするときに、本当は体の中で何が起こっているのでしょうか?

今回のテーマは「腹式呼吸とはどんな呼吸なのか」です。

1. 人間は何呼吸?

腹式呼吸

http://www.irasutoya.com/

腹式呼吸をお教えするにあたり、私は必ず生徒さんにこんな質問を投げかけます。

「魚はエラ呼吸。では、人間は?」

ひっかけ問題ではなく、答えはシンプルに「肺」となります。

中学校で習ったかと思いますが、魚はエラで水中の酸素を取り込み、二酸化炭素を排出しますよね。

つまり、この質問は言いかえると「呼吸のガス交換を行う場所(器官)はどこでしょう?」というものです。

脊椎動物は進化の過程で水中から陸に上がり、エラから肺にガス交換する場所をチェンジしました。

当たり前のことですが、人間が体外から吸い込んだ空気は肺までしか行きません。

肺よりも下の臓器には入って行かないのです。

しかし、腹式呼吸の説明で「おなかに空気が入っておなかが膨らんで……」とおっしゃる生徒さんがとても多いです。

ここで断言しておきたいことは、吸い込んだ空気は、おなかに入らない!ということです。

2. 肺の位置を確認しよう

肺

http://www.irasutoya.com/

人間がガス交換を行う器官である「肺」。

まずその肺の位置を確認しましょう。

「肺がある場所を指してください」と生徒さんにお願いすると、ちょうど自分の両胸(両乳首)辺りを、手を開いた状態で「ここら辺です」と答えられる方が圧倒的です。

それでもおおまかに正解ではあるのですが……。

歌に役立てるため、もっと詳しく肺の位置を確認していきましょう。

肺の一番上は、鎖骨のちょっと上まであります。

つまり、首の付け根あたりです。

この事実を知ったとき、私は「肺って、こんなに上まであるんだ!!」と、とても驚きました。

そして、肺の側面は肋骨(ろっこつ)に囲まれています。

肋骨が担う大きな役割は、肺や心臓などの内蔵の保護です。

肋骨の前面は、胸の中心にある平べったい「胸骨(きょうこつ)」という骨と接合しています。

そして、肋骨の背面は、背骨=脊柱(せきちゅう)と接合しています。

ちなみに、肋骨の本数は左右12本。

胸部の椎骨(ついこつ)の数は12個。

脊柱を成している椎骨一つ一つと、肋骨は関節でつながっています。

関節、というのは動かすことができます。

「肋骨が動く?」不思議なようですが、実は肋骨はよく動くのです。

しかも、前面の胸骨との接合部分は肋軟骨(ろくなんこつ)で、頑丈な骨ではなく、柔らかく弾力のある骨になっています。

つまり、少しではあるものの肋骨の前面も稼動性はあるのです。

というわけで、肋骨が頑丈で動かない鳥かごだと思ってはいけません。

最後に、肺の一番下はどこまでか。

肺の一番下は、だいたい乳首から握りこぶし一つ分くらい下の位置です。

そして肺の底面は、体の中である筋肉と接しています。

接している……というか、安静時に肺はある筋肉に潰されている状態です。

その筋肉とは、一体なんでしょうか?

3. 横隔膜って何?

肺の底面と接している筋肉は、横隔膜です。

横隔膜という名前がついているので筋肉だとはイメージしにくいですが、立派な筋肉です

しかも他の骨格筋と同じ横紋筋、つまり随意的(思い通りに)に動かせる質の筋肉です。

ところで、皆さんは焼き肉屋さんでハラミ(=サガリ)というお肉を食べたことがありますか?

カルビより赤々としていて、なかなか噛み切れないお肉ですよね。

そうなんです。

実はハラミは牛の横隔膜。こんな感じの筋肉が肺の下にあります。

安静時の横隔膜の形状はドーム型、パラシュート型、きのこ型などと言われており、肋骨の内側に迫り上がるように位置しています。

横隔膜は一枚の大きな筋肉で、体の中を完全に隔てており、横隔膜から上の空間を「胸腔(きょうくう)」、下の空間を「腹腔(ふっくう)」と呼びます。

そして、横隔膜の主な機能ですが、それはズバリ「息を吸うこと」です。

4. 肺は筋肉でできていないから……

筋肉

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前述の通り、人間は肺呼吸です。

人間が息を吸うとき、肺を広げてあげれば、体の外の空気圧と肺の圧力の変化により、肺の中に外から勝手に空気が流れ込むようになっています。

この原理も中学校の理科で習ったはずです。

でも、肺は筋肉でできていないので、自分の力で膨らんだり、縮んだりができません

つまり、肺はそれ自体で空気を出し入れする機能を持っていないのです。

ですから、肺に空気を入れよう(=息を吸おう)と思ったら、肺の周りの筋肉が動いて、肺を広げてあげる必要があるのです。

息を吸うとき、どこの筋肉が動いて肺を広げてあげるのか。

それこそが「○○式呼吸」なのです。

腹式呼吸の他に皆さんも聞いたことがある呼吸法が「胸式呼吸」ではないでしょうか。

胸式呼吸で息を吸うとき、胸が膨らみます。

その時に働いている筋肉は外肋間筋(がいろっかんきん)で、肋骨一本一本の間についています。

外肋間筋が収縮して肋骨が上に外に引き上げられ、肺が広がり、外から肺に空気が入ってきます。

では、「腹式呼吸」とは。

医学では「腹式呼吸」の正式名が用意されています。それは「横隔膜呼吸」です。

腹式呼吸は、横隔膜が動くことによって肺が広がり、肺に息が入ってくる呼吸のこと

安静時にドーム型の横隔膜は、息を吸おうと思った時に収縮して、平べったく下に下がります。

そうすることで、横隔膜と接していた肺の底がたくさん広がり、肺に空気が入ってくるのです。

では、なぜ横隔膜が動くとおなかも動くのでしょうか?

息を吸うとき横隔膜が下に下がると、横隔膜の下にある胃や肝臓や腸といったたくさんの臓器も下に押しやられます。

つまり、腹式呼吸で息を吸う時におなかが膨らむのは、横隔膜が下に下がることで、内蔵が下と外に押し下げられるからなのです

これは決して「おなかに空気が入ったから」ではありません。

まとめ

腹式呼吸を行う際、体の中では何が起こっているのか、だいたいイメージできたでしょうか?

大ざっぱにまとめますと……

  1. 横隔膜が下がる
  2. 肺が広がる → 息が吸える(入ってくる)
  3. 横隔膜下の内蔵が下に外に押しやられる→おなかが膨らんで見える

となります。

実は今回のコラムでは「息を吸う時」のことしか述べておりません。

次回のコラムでは、腹式呼吸で息を吐く時のことをお話ししようと思います。

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ライタープロフィール

相馬りえ

ボイストレーナー

相馬りえ

シンガーソングライター/ボイストレーナー。

ドラマーの娘と夫の3人で結成した家族バンド「かねあいよよか」でギターボーカルを担当。

メンバー全員が作詞作曲、ボーカルを務める。

自宅1階には、レコーディングやバンドリハーサルに対応した15畳のプライベートスタジオを構える。

職業はボイストレーナー他に、新聞や広報紙などの取材記者と、観光情報Webサイトのライター。

食生活アドバイザーの資格を有する、7歳の娘と4歳の息子の母。

■体が目覚めるボイストレーニング Webサイト

http://omezame.jimdo.com

■かねあいよよか Webサイト

http://kaneai.jimdo.com

ウェブサイト:http://kaneai.jimdo.com

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